台所

私は昭和生まれ。自分の両親は典型的な昔の日本社会の縮図のような関係で、父親は男だから外で稼いで家に帰れば「飯、風呂、お茶」といった感じ、母親は専業主婦で家を守り子供を育てるのが役割だった。だからと言って何でも父親の言いなりに従うようなしおらしい母ではなかったので、お互い引かずの夫婦喧嘩が多々あったのを覚えている。料理はというとたまに休日父親が焼うどんや炒め物、好き焼、鍋奉行はやっていたが、ほとんど台所に入ることはなかった。男子厨房に入るべからず、母親も家庭の料理は女の仕事と思い込んでいたように思う。そんな訳で私は結婚するまでほとんど料理をしたことがなかった。興味もなかった。しかし、今の時代そんなことを言っているようでは結婚生活等できようはずもない。よほどお金持ちで余裕があって、しかも女性が家庭に収まることを希望しなければ共働きは普通。夫婦ダブルインカムでやっと生活が成り立つといった家庭も多いと思う。当然男(旦那)は家事をしません、料理はできませんなどと言っていられない。今の若い男性は育メンとか主夫をも厭わないようだ。しかし今だからこそ言える。それは正しい在り方だと。

ところで私が料理をするようになったのは結婚をして20年程たってからか。それも妻が大病を患い入院して、その間子供たちの面倒をみる上で必要だったからだ。恐らく最初の内は食べられればOK程度で子供たちも我慢していたようだ。それは後々にわかるのだが。何しろあまり作った事がなかったので仕方がない。それでもやっているうちに慣れて、妻が退院して主婦に復帰してからも週末の1日は必ず夕飯を作るようになった。そして毎日料理を作るのは大変なのが良くわかった。献立を考えるだけでも面倒だ。同じものも飽きるし、かといって料理好きでもないので、つい一般的なもの自分が食べたいものになってしまう。歳をとると肉より魚、野菜が食べたくなる。あるいは油を使う焼き物より煮物とか。まさに母親の作る典型的な家庭料理で出汁のきいたあっさりしたものが食べたくなる。残念ながら何年も前に母は亡くなり、その味付けの秘訣は分からず終いだが、今でも再現できないものかと思う事がある。料理も慣れてくるとレシピ等見なくともあれとあれを混ぜればきっと合う、ああすれば美味しくなると頭の中で計算ができるという。まだそのレベルには程遠いが。今は夫婦揃っていても、いずれはどちらかが先に逝く。おかげさまで、もし妻に先立たれたとしても自分で料理が作れるので何とかなりそうだ。掃除洗濯も問題はない。「女やもめに花が咲き男やもめに蛆がわく」と言われないようこれからは男も厨房に入り浸って妻を唸らせるような名シェフになるなんて想像する。それもまた楽しからずや。

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